アニメ評「スピードグラファー」 −金融・生化学・戦争−
「世界を動かすのは、人間の欲望だよ。欲望は金で購える。
人が欲望を叶えようとすれば、多かれ少なかれ金が動く。
つまり、世界の根底には金の流れがあるんだ」
(仁木稔「スピードグラファー」)
TVアニメ「スピードグラファー」を全話視聴完了――素晴らしかったよ…。
本作は間違いなく2005年度におけるアニメの最高傑作。
本作は資本群と、そして生化学の問題をテーマにした近未来SFとして、
日本SF大賞に推薦したいと願う、それほどに、素晴らしい出来映え。
ただ、映像(アニメ)では描ききれなかった部分がかなりあり、それは
これまた非常に出来の良い、これ単独でも優れたSFとして楽しめる
アニメのノベライズ版(SF作家仁木稔さんの手によるノベライズ版が
早川文庫より出ています)の方で補完されていますので、アニメと
併せてそちらも一読されることをお勧めします。非常によくできている…。
スピードグラファーの舞台は近未来の日本。この近未来においては、
日本経済は第2次バブルと云われる経済的絶頂を迎えており、また
世界全体の経済も非常に潤っている。けれどまた、世界各地で紛争、
戦争が相次ぎ、世界全体で小規模な戦乱が烈しく巻き起こっている世界。
元戦場カメラマンで今は日本国内でのフリージャーナリストである主人公
は薬事法改正に反対する議員や関係者が次々と変死を遂げる事件を
追ってゆくうちに、世界における流れの底にある恐ろしい秘密を突きとめる。
それは、実は、世界の現状が、作られたものであること――人間を、
誰もが知らないうちに生化学的に改変することによって…。
始まりは日本。1980年代に、バブル・ウイルスと名付けられたウイルスが
日本において発見される。このウイルスは人間に感染すると、人間の
脳内のセロトニン分泌を阻害し、人間の欲望衝動を高める効能があった…。
アメリカや日本を中心とする世界各国政府と、全世界の巨大多国籍企業群は、
このウイルス「バブル・ウイルス」を改造して強力な効能と感染力を持たせる
ことで、ウイルスを全世界にばら撒き、全世界の人間がアンフェタミンを服用
したかのような生化学的状況に変化させ、人間の消費欲望を無限に高めて
資本主義を無限に拡大させる計画を発動する。計画は極秘裏に進められた。
「すべての始まりはあのバブル経済、そしてあの常軌を逸した狂奔の真の原因
とされるバブル・ウイルス――1990年、西側各国政府及び複数の多国籍企業は
(脳内のセロトニン分泌を阻害することで)人間の欲望を増幅するこの病原体を
用い、世界規模で消費を無限に拡大させようと目論みました。こうして発動した
のがバブル計画です。日本からは、政府の委託を受けた152研究所、そして
(日本発の多国籍企業である)千里グループが参加しました」………
「ウイルスを実用的にする為の改造が行われましたが、これもうまくいきません
でした。感染率ばかりではなく、致死率までも高くなってしまったのです。
これらのウイルス(を全世界にばら撒いたこと)によって、紛争やテロ、凶悪犯罪
が全世界規模で増大しました。すなわち、バブル戦争が引き起こされたのです。
しかし、安全保障産業の隆盛によって、多くの者が潤いました。もちろん、バブル
計画推進者達もです。計画は続行されました。一方、日本の研究チームは計画
から取り残されていました。日本政府が出資を削減した為です」………
神経伝達物質であるセロトニンは、衝動や快楽を司る
ノルアドレナリン及びドーパミンを制御し、精神を安定させる。………
病原体バブル・ウイルスは人間の脳幹に作用し、セロトニンの
分泌を阻害する作用を持っていた。発症者はノルアドレナリンや
ドーパミンが制御されず、衝動的で快楽に溺れ易くなってしまうのだ。
(仁木稔「スピードグラファー」)
アニメの中だけの話とお思いになる方もいらっしゃるかもしれませんが、
実はこれと似たような事件は実際に起こっているんですね…アメリカで
1995年に起きたADHDスキャンダル。以前ご紹介した「人間の終わり」に
この事件は詳しく載っておりますが、ここで簡単にご紹介すると――。
人間の衝動性や快楽感覚を高めるアンフェタミン系抗鬱剤リタリンは
アメリカを始め、日本などの世界各国で使われていますが、ADHD
(注意欠陥・他動性障害)患者による世界最大の互助組織CHADDが、
米政府に対し強力なロビー活動を行い、リタリンのスケジュールU指定を
撤廃させようとしたんですね。スケジュールUというのは、アメリカの
DEA(麻薬取締局)が医薬系麻薬として全製造量規制、すなわち、
麻薬として、DEAが生産量コントロールを行っている医薬品を指します。
CHADDは、リタリンがスケジュールU指定されていることは、リタリンを
服用するADHD患者に対する不当な差別であり、リタリンはもっと自由に
処方・服用されるべき薬物だと主張して米政府にリタリンのスケジュールU
指定の撤廃を要求し、あと少しのところで撤廃されるところだったのです…。
然し、全てはおじゃんになった。アメリカのジャーナリズムが暴いたのです。
CHADDはリタリンを製造する巨大製薬企業ノヴァーティスと癒着しており、
CDADDの構成員であるADHD患者やその関係者(患者の親)はノヴァーティス
から莫大な金を貰って動いていることを。アメリカ世論は激怒し全てはお流れに。
でも…もし、もしも、アメリカのジャーナリズムがこの情報を知らなければ、
製薬企業が国家を動かしてほとんど麻薬というか麻薬そのものであるリタリン
がアメリカのドラッグストアで簡単に手に入るような状況になり、なんでも
アメリカ追随の日本でもどのような状況が起きたか…考えるだけで恐ろしい…。
ジャーナリズムは日本では批判の対象になることが多いですけど、こういう
事件も数々ある訳で、ジャーナリズムは本来的に大切な役割を担っている。
(リタリン問題における)最重要の圧力団体はCHADD(ADHDと子供と親の会)
であるが、これは1987年に設立された非営利自助団体で、ADHDと診断された
子供を持つ親が中心となって構成されている。………1995年、同団体は、
リタリンを(スケジュールU指定を撤廃して)スケジュールVの薬物として
分類するように大掛かりなキャンペーンを行った。そうすることによって、
DEA(米麻薬取締局)の全製造量規定が取り除かれ、処方と服用がしやすく
なるからだ。ADHDを病気として扱うことを支援する第二に重要な団体は、
製薬業界、とくにノヴァーティス(以前のチバ・ガイギー)など、リタリンと
関連薬の製造業者である。………ノヴァーティスはりタリンをスケジュールV
の薬物として分類せよと、強硬に(アメリカ政府に対して)圧力を掛けてきた。
1990年代初めには、製造量が不足したという話を広め(世論操作)、
割り当ての急増を求めたが、しかし1995年、やり過ぎて失敗した。
ノヴァーティスがCHADDに90万ドルもの献金をした事実を隠蔽していた
ニュースが露見すると(ノヴァーティスとCHADDの企みは)全て水の泡になった。
(フランシス・フクヤマ「人間の終わり」)
………スピードグラファーで描かれるような状況は、全然絵空事じゃないんですよ。
私達は一場面、ほんの極僅かな一場面しか知り得ることは出来ないし、それら多数の
場面を統合して操作できる力――資本の力――の前にとてつもなく無力なのですから。
スピードグラファーの面白いところは、人間が全て金(資本)の流れの中に
いる世界の絶対的真実をきちんと描いた上で、理想主義者である主人公が
いつしか資本主義システムを破壊しようとする相手と戦うことになり、理想家
で金に堕落した人間を憎んでいる主人公が、資本主義を守る為に戦うことに
なるという皮肉を描いていて、凄い、恐ろしい、寒くなるほどの辛辣さがある。
全世界が全て資本主義で動き、金の流れで動いている以上、もし資本主義
システムが破綻したら、世界中の人間も破滅して今よりももっとずっと酷い、
血と戦争と内乱の混乱した無政府状態がやってくる、それよりはまだ今ある
資本主義を守った方がいい、それが自分の大切な人々や、世界の人々を
守ることに繋がるという、どうしようもない皮肉な結末に理想家が追いつめられる、
これって今までのアニメではなかったパターンですね…非常にリアリスティックだ…。
主人公の敵になる、超巨大企業天王州グループの実権を握る水天宮寵児は、
元は別の企業グループの御曹司ですが、幼い頃にグループが破産、彼の両親は
自殺に見せかけられ殺害され、彼と妹はそれぞれ別々に売り飛ばされ、彼は
拷問大好きの変態の慰み者になって身体中を焼かれて、一目と見られない
ずたずたの身体になった上に、次は非合法少年兵として軍事請負企業に
売られ、汚い軍事仕事を専門にやらされるようになり、もう、とてつもない、
この世の地獄を超えた地獄としか表現しようのない世界をかいくぐってきた…。
彼は、破滅的な軍事行動作戦中に、致命的な重傷(左上半身を失う)を
負うのですが、そこで、バブル・ウイルスの軍事転用(生体兵器化)の研究
機関に拾われ、モルモットとして、今まで全く成功しなかった生体兵器の
実験台となる。そして実験は成功し、圧倒的な戦闘能力を持った生体兵器
と化す。彼は自らが手に入れた力で研究所から脱走して追っ手(米軍)を
抹殺し、自分の過去を捨てて、自分の親の企業を潰した仇である巨大企業
天王州グループに潜り込み、そのグループの総帥の信頼を得ることで
グループ内での地位を掌握し、そして総帥を弑逆することで、ついには
完全に実権を握る。ちなみに彼の妹は彼と別れた時は五歳だったのですが、
彼が権力を手に入れて彼女を見つけだした時は既に海外の場末の売春窟
で廃人になってました…、彼は全世界に復讐することを誓う。彼は、個々の
人間、仇である人間など殺してもそれらには何の意味もないことが解っていた。
「戦争は欲望によって起こる。それも、金で購える欲望だ。
宗教や思想によってじゃない。そんなものは建前だ」
(仁木稔「スピードグラファー」)
「神泉や神谷を殺したところで何になる。
また別の人間にすげ代わるだけだ」
(水天宮。スピードグラファー第23話)
彼、水天宮は復讐を開始する。彼の復讐すべきは日本全て――全世界。
彼は日本の経済システムを破綻させると同時に日本の統治システム、
そして日本人の生体を破壊することを目論み、生化学技術開発に力を
入れてセロトニンを強力に阻害する物質の精製に成功、それを食料品
や医薬品に”合法的”に入れる為に薬事法を改正させ、そして日本の
統治システムの上位階層を薬物とセックスで骨抜きにする。そして彼は
日本中の食料品や医薬品の中にセロトニン阻害物質を混ぜて日本人の
欲望衝動性を高めた上で、クーデター的な行動を起こして、日本の
統治階層を一網打尽にする。日本で異常な事態が起きているとアメリカが
介入してくる。然し、それは彼の望むところ。彼は天王州グループの全ての
財産、8兆ドル以上――を、全て現金及び有価証券化して、グループ
本社に移送し、それを本社への米軍の攻撃の中で焼き尽くすことで、
全ての復讐を完了しようとする。日本のあらゆる企業が天王州グループ
に投資、または何らかの系列的関係にあり、日本経済が天王州グループ
なしでは立ち行かなくなっている以上、それらの財産が破壊されば、日本は
完全に経済的に破滅する。そして人々はセロトニン分泌を阻害され、統治階級
が水天宮の手によってごっそり殺されていなくなっていることで、統治システム
も崩壊している以上、日本国内は大混乱の中で破産し、日本という国家
自体がなくなる。そうなれば、世界の経済システムにも大混乱を与えること
ができる、世界経済を破滅的方向へ導く、それが、彼、水天宮の復讐計画――。
いやあ、感動した!!こんなにちゃんとした全世界への復讐計画を行う
悪役なんて、アニメにこれまでいなかったですからね。主人公よりも、
彼、水天宮の方が破滅的な方向に真に理想主義者であるとも云える。
この物語、明らかにメインが水天宮の方で、主人公や、限りなく影の薄い
ヒロインは水天宮の復讐物語の狂言回しのような存在でしか過ぎない。
私も、この水天宮という男には、魅力を感じる。妹を本当に愛していた
彼は、妹の魂を殺した全世界を燃やし尽くそうとする…、彼は、正しいよ…。
ちなみに彼は生体実験によって生物兵器、ユーフォリア(陶酔者)に
なりましたが、その副作用で生殖能力と性的欲望を失い、そして身体
自体もほとんど朽ち掛けていて、拷問のような延命治療を受けてなんとか
生き長らえているのですね。ユーフォリアの細胞は優れた新陳代謝能力、
肉体の再生能力を持ちますが、その代わり再生する細胞の劣化コピー度
が極めて高く、凄い勢いで身体が劣化してボロボロになっていってしまう…。
彼には、妹の復讐の為に残された時間が、ないのですね…。
私は、この水天宮という男、好きですね。世界システムに復讐しようとする
彼の果てしない憎しみ、その憎しみを動かす果てしない悲しみ、、……深い愛。
金に堕落し腐敗した政治家や官僚を嫌い、心優しいヒューマニストで、貧しい
人々に共感を寄せる主人公のフリージャーナリスト雑賀辰己の方が、結局は、
自ら嫌っていた資本主義システムを”日本の人々の生活を破綻させない”という
目的で守ろうとし、水天宮と戦うのは、もうなんとも皮肉で辛辣な展開…。
私はどうしても、水天宮の方が、行動動機に深い共感を感じてしまうよ…。
水天宮に比べれば、主人公は薄っぺらい…。
もし、世界のシステム(資本主義)によってこの世の地獄に落とされて、
世界のシステム(資本主義)によって愛する人の魂を殺されたらどうだろう。
その時、世界のシステムを破壊して人類の多くを少しでも破滅させる為に、
自らの全てを水天宮のように投じるのは自然なことではないか。それは主人公
の雑賀が述べるようなヒューマニズムなど遥かに超えた自然ではないか。
「俺は、常に真実を写してきたんだ。命を賭けて戦う兵士達を、
貧困の中でも精一杯生きている人々を。彼らは、この国の連中
みたいに腐っちゃいない。本物の人生を生きているんだ」
「本気で言っているのか」水天宮は呆れ返った口調になった。
「戦争はさまざなな利権の絡んだビジネスであり、軍隊は企業の一つ
に過ぎん。兵士たちはその社員というわけだ。貧しい連中は少しでも
金を手にしようと、犯罪に手を染め、我が子ですら売り飛ばす。この世
のどこであろうと、生きている限り金の流れとは無縁ではいられない。
それが、真実だ」
「彼らは汚れた金の流れの犠牲者だ。俺は、その真実を告発してきた」
「なるほど。その真実とやらを告発する優越感が、お前を動かしてきたのだな。
或いは単に、衝動的な光景を撮る快感に溺れていただけではないのか?」
雑賀は絶句した。糾弾は淀みなく続く。
「たとえおまえが高邁な思想で写真を撮ったのだとしても、
それは発表されれば値段のついた商品になる。そんなことも
解らずにいたのだとすれば、救い難い愚劣さだな」
氷の刃のような声は、周囲の空気を凍てつかせた。
「……自分だけは汚れた金の外にいたつもりか」
雑賀は両手を握り締め、立ち尽くしていた。
反論は山のようにあったが、喉の奥でつかえ、
一言もでてこなかった。
(仁木稔「スピードグラファー」)
水天宮は拷問好き変態の慰み者としてずたずたの焼け焦げた身体に
された後、軍事請負会社G&Dの非合法少年兵として、地獄を生き抜いて
きたのですが、その生への執着、生き抜く強さと、そしてそんな地獄の中
でも、人間性を失わず、敵を人間として見ることを捨てなかったことから、
G&Dの上官に評価され、G&Dの正社員として起用され、汚い裏の任務から、
表のお綺麗な任務、国連からの請負任務などに付くのですね。そしてそこで、
雑賀のようなことを云うジャーナリスト連中とは会ってきたのです。お綺麗な、
それこそ綺麗事を述べて、本当に黒い影の部分からは目を逸らしてなかった
ことにする連中と…、彼は会ってきた。お綺麗な連中は、親が子を売り飛ばす
世界、非合法少年兵の地獄や紛争地帯での略奪と虐殺などは決して見ずに、
ただただ視聴率の取れそうなお綺麗な上澄みだけを掬うだけ。彼は国連からの
請負任務中、自分が以前命を助けた元ゲリラ(まだ子供)と出会うのだけれど、
先進国のドキュメンタリーに出る筈の少女が、その少年元ゲリラを見て、発作を
起こす。少女は昔、その元ゲリラに制圧され略奪・虐殺された地域の出身だった。
そこでマスコミは、こんな話(虐殺)は放送コードに引っかかるし、予定と違うから
放映できないと帰ってしまう。水天宮は、少年ゲリラの話を聞き、彼が、略奪虐殺
していたことを知り、彼を殺害するのです――そして、国連軍が街の少年を
殺害したということは先進国の注目する大スキャンダルになり、彼は再び全て
の身分を剥奪され非合法部隊、それも自殺的な非合法部隊に売られる。
…雑賀の言葉など、水天宮の体験に比べれば、塵芥よりも無意味だよ…。
武(水天宮の旧名)を見上げる少年(ジュマ)の目が大きく見開かれた。
「楽しかった。毎日がお祭り騒ぎみたいだった。文句を言う奴はぶち殺して
やったけど、その内、本人じゃなくて家族を殺した方が面白いって判ったんだ。
目の前で、身内を生きたまま切り刻んでやるんだ。色んな殺し方を試したよ……」
うっとりと、少年は語り続けた。武の存在はもはや眼中になかった。
いつのまにか、しっかりとカラシニコフを胸に抱き、右手で撫で続けていた。
「女は、どんなふうにした?」
囁く声で、武は尋ねた。
「ババアと赤ん坊以外は、みんなやった」
「……アディも」
「うん……そういう名前だったな、あの女。やる時は、小屋の外に出すんだ。
四つん這いで逃げ回るのを、みんなで追い掛けてさ。必ず最後に捕まって
やられるのに、毎回毎回必死で逃げるんだ。すげえ笑えたぜ」
無邪気に、夢見るように、少年は微笑んだ。
「楽しかったな……またやりたい」
武も、笑顔を作った。断末魔の苦悶のようなその微笑を目にし、
ジュマがぎょっとして息を飲む。その瞬間、武はベルトからナイフを引き抜いた。
音を立てて、鮮血が噴き上がった。
(仁木稔「スピードグラファー」)
武…水天宮の行動は、いつも、芯が…真が通っている。
もし、世界のシステム(資本主義)によってこの世の地獄に落とされ、
そして世界のシステム(資本主義)によって愛する人の魂を殺された時、
自らの前に世界を滅ぼす力があれば、世界を滅ぼす道程があれば、
迷わずその力を掴み、その道程を往く、それは、正しいと私は感じるんだ――。
私は、雑賀より、水天宮の方が好きだよ。
そして、最後に、この物語の最も素晴らしいところを――
本物語は最後に、雑賀ではなく、水天宮が勝つのですね。
私は、雑賀が勝つものと思っていたから、とてつもなく驚嘆し感動した。
なんという、素晴らしいアンチクライマックス。
そして、私は復讐の真の意味を悟った。
(水天宮。「スピードグラファー 最終話」)
米大統領補佐官
「今入った情報ですが、天王州グループの総資産
約8兆ドルが行方不明になっています」
米大統領
「何!?」
米大統領補佐官
「なんてこと!しかも日銀は天王州グループに対して
10兆ドルもの増資をしているようです!」
駐日米大使
「まさか、水天宮はその全てとともに自爆を…?」
米国防長官
「そんなことをしたら、日本が国家破産するぞ!」
米大統領補佐官
「ただでさえ、日本には20兆ドルの財政赤字があります!」

(「スピードグラファー 最終話」)
最後、日本が国家破産し40兆ドルの金融資産が市場から消失したことにより、
金融市場は六本木クライシスと云われる大恐慌を起こし、全世界は破滅する。
水天宮は妹の復讐を果たしたのです。彼は世界の秩序、すなわち
世界の金融秩序を破壊し、世界を混乱と破滅の中で滅ぼした。
私はラスト、壮絶なカタルシスの余り全身が震えたよ――。ああ!!
今までのアニメで、悪役の思う通りに世界が滅び、その滅びが美しい作品って、
私の知る限り、デビルマンと本作だけだと思いますよ…、見てて、震えがきた。
この作品、デビルマンを明らかに意識しているところがあって、生体兵器
としての水天宮の姿は、血まみれの真っ赤なデビルマンそのものなのですね。
最後に世界が滅びるというのも、まさしくデビルマンですね…。
まあ、デビルマンと違って人類全体の生命が奪われた訳ではなく、人類
は存続していますが、金融市場の破滅的な大恐慌によって、世界が退化
してしまっているような様相は東京のボロボロに朽ち果てた高層ビルと
その下に立ち並ぶボロボロのバラックとして最後に描写されます。
金融秩序の崩壊によって、金融の力が保っていた平和が失われ、
先進国も含めた世界中が、血で血を洗う状況になっていることを予感させる。
なんという、アンチ・クライマックス。素晴らしい、最大級の賛辞を
込めて素晴らしいとしか云いようのない終わりでしたね…!
スピードグラファー、素晴らしい、傑作作品。
参考作品(amazon)
「スピードグラファー DVD」