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「星辰」

(フリードリヒ・ニーチェ)

星振――我々は過去には友であった。

だが今はそうではない。

そうなるのが当然だったのだ。

我々は異なる目的地と航路を持つ二艘の船だ。

――遥かなる昔日、勇猛果敢な二隻の海洋船は、
一つの港に一つの日光を浴びて横たわり、
ともに同じくする目的地を目指していたかもしれない。

――然し、やがて我々の使命、我々の力が我々を分かち、
別の海洋、別の海域へと駆り立てたのだ。

我々はもう二度と出会うことはないかも知れぬ。

――そして、出会うことがあっても、もはや以前のように
お互いを見分けることはできぬであろう。

さまざまな海と太陽が我々を別なものへと変えてしまっているだろうから。

我々が疎遠になること、それは我々を支配する意志なのである。

まさにそのことによって、我々はまた、
互いにいっそう尊敬しあえるものになるべきなのだ!

まさにそのことによって、我々の過去の友情の記憶が、
いっそう聖なるものとなるべきなのだ!

おそらく、我々のまったく異なる道筋や目的地が、
その小さな一部として含まれるような、
目に見えない巨大な曲線と星辰軌道が存在する筈だ――

――こういう思想にまで我々は己を高めよう!

――だが、こうした崇高の可能性の意味での友人以上となるには、
我々の人生はあまりに短く、我々の視力はあまりに弱い――

――だから我々は、
地上では互いの仇敵にあらざるをえないにしても、
我々の星の友情を信じよう。

 

 

訳者コメント:ニーチェが1876年にかつての友、音楽家リヒャルト・ヴァーグナーと敵対し、
完全に訣別した後、後にヴァーグナーとの交友をふりかえって書いた
文章です。ニーチェの詩的な文章はどれもとても繊細で美しいですが、
特に、この文章は、私はとても好きですね…。
「これがニーチェだ」に収録の永井均訳を参考にさせて頂きました。)

 

参考リンク

「ツァラトゥストラはこう言った(上巻)」  「ツァラトゥストラはこう言った(下巻)」
ニーチェは私の大好きな哲学者ですが、その著書の中でも特に好きな一冊。詩的な繊細さに満ちている…。豊かな書。

「ニーベルングの指輪」
ヴァーグナーもまた、私の大好きな音楽家ですが、彼の作品の中で最も私が好きな楽劇がこの「ニーベルングの指輪」です。

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