
書評「虚数」 −Necronomicon−
スタニスワフ・レム「虚数」(amazon)
この世で最も慈悲深いことは、人間がその脳裡にある知識の全てを互いに
関連付ける能力を持たないことである。私達は、無限に広がる暗黒の大洋
の只中、無知という名の平穏な島に住んでおり、遠く乗り出すいわれもなかった。
諸分野で真理を極めようとする科学は、我々に、これまでは害を与えよう
とはしていない。しかし、いつの日か、分散していた知識が一つに融合し、
現実世界における我々の恐ろしい位置に関する、狂おしいまでの展望を
顕にするならば…、我々は狂気に救いを求めるか、悼ましい光から逃れ、
新しき暗黒の世界に平安と安寧を求めて、安らぎを見出すことだろう。
(H・P・ラヴクラフト「クトゥルーの呼び声」)
「ニーチェは確かに狂人の如く思われていたが、
彼は実は航海に出たにすぎなかったのだ……」
(アンドレイ・ベールイ)
………。………。………。ああ…。
この作品は……。………。全体像を捉えようとすると私は発狂してしまう…。
……局所的に語ると…未来予知能力を持つ大腸菌「雄弁くん」が………
うう…いや…コンピュータによるビット文学として…………
ああ……常に書き換わる予測百科磁典の………
あはははははははははははははははははははははははははh
……うう………。なんだ……この感覚……ああ、人間を超えた、世界、
この世界が、言語が、コードが、世界が、ああ、人を超えている………。
理解不能であることが…この物語の局在的かつ連動的なテーマである
ことは間違いなく、この作品の全体像に対して真剣に全力で理解しようと
取り組むことは、狂気を意味するだろう――Necronomicon。
この本自体が、ソラリス、理解不可能な、いや、理解不可能といった
カテゴリ自体を拒否する、超脱的な存在。
人間を遥かに超越した、人知の外にいる超AI「GOLEM」………。
GOLEMが、幼年期の終わりのオーバーロードとして、オーバーマインド、
人間にとって人間の認知の外にいる超脱について、翻訳する。
GOLEMは、全く人間的ではないながら、
ニーチェ的な、太陽――大洋のような超AI。
GOLEMの語る、恐ろしい………
人間は、人間でなくれば、もはや人間には理解できなくなる。
人間は、人間のままでいることは、不可能な領域に入っている存在。
人間の、理解不可能としての、世界の在り様を示すこと。
この本は、それを………
最後のたとえ話は寓話であって、その中で旅人は岐路に立つ
次のような道しるべを見つける。「左に行けば首を落す。
右へ行けば死ぬ。後戻りは不可」………
上位の知性が諸君に恵むものは諸君には理解不能であり、
まさにそのことによって諸君の知性は消滅する。
つまり、例の寓話の道しるべが語っているのはまさしくそのことなのだ。
(スタニスワフ・レム「虚数」)
参考図書(amazon)
スタニスワフ・レム「虚数」
H・P・ラヴクラフト「クトゥルー 第1巻」(クトゥルーの呼び声)
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スタニスワフ・レム −言語の空無−
語り得ないことは、沈黙しなければならない。
(ウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」)
最近、スタニスワフ・レムの翻訳ラッシュで、レムの作品
(虚数、完全な真空、高い城etc)を読み耽っているのですが…。
うああ…もう…物語とか、言葉とか、何もかも一切超越している…
ああ、天才、天才、天才としか云いようがないよ!!二十世紀最大の作家ではないか、
いやもう作家とか、作品とか、そういうカテゴリを超えた存在としか云いようがないよ!!
筒井康隆とか、ボルヘスやナボコフさえレムに比べると固定観念から離れられて
いないことが分かる。レムのドラスティックな、脱言語的な天才は、超脱的超天才ィィィィ!!
レムの作品の感想を書こうとしたんですが、どうしても書けないんですよ。
引用してもそれが空無になってしまう。通常の物語、筋書き(プロット)、言葉の
暗黙裡の約束とか全部ぶっちぎって、言語の空の彼方にイってしまっていて…。
どうしてもカテゴリに入れるならばメタフィクションということになるのでしょうが、
もうそういったメタフィクションとか、そういったカテゴリとかそういう枠を超脱している…。
なんなんだこれは…もう、凄い、壮絶な衝撃…。私達がいかに物語という枠に安住して
のんべんだらりと過しているか…そういう私達の安住を叩き壊して空に飛ばしてくれる。
物語は物語だと思っている人は、レムの作品を読むことをお勧めします。
物語は物語ではないということを、レムの作品は教えてくれる…。ああ、語り得ない!!
ドア枠のこちら側にかけて、私は誓うだろう。
精神の腕を思い切りぐいと引っ張ってそのドアを開け、
無の中へ読者を押し込み、
そのことによって読者をありとあらゆる存在
からも世界からも一度に引き離してやることを。
奇跡のような自由を私は請け合い、保証し、
あそこには何も無いこと、
すなわち無があることを約束する。
私は何を得るのだろうか。創造に先立つ最も豊かな状態だ。
あなたは何を得るのだろうか。至高の自由だ。
あなたが純粋な上昇飛行をするとき、
私はどんな言葉によっても、
あなたの耳をかき乱すことはないからである。
私はただ、鳩の愛好家が鳩を手に取るように、
あなたの耳を取り、
それをダヴィデの石のように、
つまり巨人ゴリアテを打ち殺したあの憤激の石のように放り投げるだろう。
それが無限の空間の中に飛んでいき、永遠の楽しみを得るように。
(スタニスワフ・レム「虚数」)
参考図書(amazon)
スタニスワフ・レム「虚数」