電波男 −豊饒の萌−
巷で噂の電波男、読みましたよ〜(^^)/
面白い、非常に優れて面白いですね。この本は、学術的な社会分析書
というよりも、極めて作家的な物語として、非常に力強さを持っている。
日本史上最高の作家の一人である三島由紀夫に、
良い意味で凄く近い才能を感じられる本でした。
本書作者の本田透さんは、豊饒の海第四部「天人五衰」
に出てくる「本多透」に通じてらっしゃるところがありますね。
この本多透はある意味での三島の分身であり、そしておそらくは
作者の本田透さん自身も本多透を意識しているのかなと思います。
(本多透の幻想を突き詰めてゆく形が極めてネガだとすると、
電波男の本田透さんの幻想への希求は極めてポジなものですが、
ただ、両方とも根幹的な幻想へのリアクションがとても似ている…
あと本多透は巨乳メイド好きで、本田透さんもそうですよね…)
(本多透は)自分で目を付けて寝てやった娘を家に入れ、
メイドさんと呼んで、女中に使っていた。
(本多の一番のお気に入りであるメイドの)つねは、
なかでも一等愚かで、一等乳房が大きかった。
(三島由紀夫「天人五衰」)
一体僕の生存の難しさはどこから来るのだろう。それは又、僕の生存の、
一種不気味な円滑さと容易さと言い換えても同じことだ。………
僕はこの世に生まれてきたとたんに、僕という存在が背理であることを
知ってしまったらしい。僕は欠如を負うて生まれてきたのではない。
この世にありえないほど完璧な人間の、しかも陰画として生まれたのだ。
ところでこの世は不完全な人間の陽画に充ちている。誰かの手が僕を
現像したら、かれらにとってはそれこそたいへんなことになる。
僕に対する恐怖はそこから生まれるのだ。………
僕の不幸は、明かに自然の否認に由来していた。自然というからには、
一般的法則を内に含んで、味方をしてくれるものでなければならないのに、
「僕の」自然はそうではなかったのだから、否認しても当然だろう。
しかしその否認に、僕は優しさを以ってした。僕は決して甘やかされて
などいなかった。僕を傷つけようとひしめいている影を常時感じていたから、
逆に、人を必ず傷つける結果になるやさしさの支出には慎重になった。
これははなはだ人間的な配慮と呼ぶことができよう。しかし配慮という
言葉自体に、何か歯触りのわるい疲労の繊維がまじっているのだ。
(三島由紀夫「天人五衰」中の「本多透の手記」より)
世界に対する冷徹な、全てを見通す眼差しと、幻想と分かっている上で、
なおその幻想、すなわち「美」というものを自らの裡で完成させる強さと孤独。
天人五衰の本多透は意志の力が決定的に欠けていて自滅しますが、
三島由紀夫や、電波男の本田透さんにはその力がありますね…。
それは、自らの美を社会に現実化する巨大な夢の意志の力。
三島由紀夫は「金閣寺」や「宴のあと」などが代表する様に、現実に自らの
巨大な幻想を突入させて、現実を芸術化する天才でしたが、本田透さん
にも間違いなく同じ才能がある。社会を美学化する才能が…。
本書にでてくる恋愛資本主義などの概念とかは…う〜ん…その…。
どちらかというと、名付けようのないものを名付けるという努力の証かなと。
恋愛資本主義とか云わずとも「美の欠如」で良いんではないんですかね…。
恋愛資本主義という言葉で言い表されるものは美しくない、それは欠如の方程式。
ただ巨大に商業的メカニカルなシステムのみが立つ構造、それは、欠如の構造。
そこには、人間が欠如している。己が欠如している。そして心の無いところからは、
美は決して生まれない。なぜなら、美を感じるのは、人の心、己の心であるのだから。
美しくないものを美しいと教える嘘の事態に対して、自分に真直ぐに生きる意志をもち、
なおその嘘を見ぬける繊細さと美意識が在れば、必ずやその嘘に反感を覚えるでしょう。
そういった自分に真直ぐな反感が本書のなかには溢れている。
私はこういった「正直な反感」が好きです。素直な美意識と云うものを私は愛している。
美と云うものを極めていくと、そこには自分を超えて美というものが現われて来る。
これは何かというと、三島なら阿頼耶識とでも云うところなんですが、まあ、世界ですね。
私ではなく、世界が現われて来る。でも…多くの人は自分の周りの限定された世界
しか見えない。そしてその世界を人に押し付けようとし、世界を小さく区切ろうとする。
その「小さく区切られた世界」を破壊することで、世界と云う美を見せること、才能があり、
なおかつ強い美意識を持つある種の選ばれた芸術家はそれを行うことが出来る。
三島由紀夫然り、ボードレール然り、ニーチェ然り、そして電波男の本田透さん然り。
夢を目覚めさせることで、人々に世界の美しさを示すこと、これは、
とても英雄的なことですよ。私はこういった英雄を尊敬しますね…。
いずれは、もうちょっとしっかりした文章を纏めたいですが、
ざっと一読した限りでは、このような想いを私は抱きましたね…。
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本田透「電波男」